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腹黒い私からの脱出

「おはようございます」
と、したくもない挨拶をしていつものごとく会社に到着。

私は埼玉から東京のはずれの会社まで、毎日約2時間かけて
通勤している。
年は50歳のちょいとくたびれ気味のサラリーマン。
名前は石沢という。

自分の机に座って、パソコンと書類を机の上に準備。

机も眠いのか、「フワー」と、大きなあくびをしている。

「生意気な机だ!」と、げんこつを机にぶつけると手が
机の中にぐんにゃりのめり込んで抜けなくなる。
「あ、机にセクハラ!」朝から元気な女子社員が私をからかう。

そのからかっている女子社員のお尻をなでているのは、わが社
の社長。
「石沢君、机にセクハラしてもいいことないからね。」社長はほが
らかに言って、朝からその女子社員とイチャイチャじゃれている。

そんなのはほっといて、
まずは、パソコンを開いてメールのチェック。

=================================================
石黒様

いつもお世話になっております。
=================================================

という出だしで、取引先の会社のSさんからメールが届いている。
そのSさんからのメールはこれで3回目だ。
私は、苦笑する。

『何回間違えればすむのだろう・・・。石黒じゃなくて石沢なのに。』

私は、それを指摘する返事を出す。

「 S様。 お世話さまです。
   残念ながら、私は石黒ではなくて、石沢です 」

そうしたら、さすがにまずいと思ったのか、すぐに謝罪のメール
が飛んで来た。それも、同じ内容を重ねるかのように、2通の
謝罪のメールが。

『謝罪のメールなんて1通だけで充分なのに、なんか間が抜けて
いる人だなぁ。』
と、思いつつ最初の謝罪メールを読んでみた。

その出だしはこうだった。

=================================================
石黒さま。

お名前を間違えましてたいへん失礼いたしました。
=================================================

何のことはない。謝罪のメールでまた、最初に名前を間違えて
いる。
そして、2通目の謝罪メールでやっと、石沢と入力してある。

=================================================
石沢さま。

重ね重ね、お名前を間違えまして、たいへん失礼しました。
=================================================

私は、笑ってしまった。同僚にもそのメールを見せると、同じよ
うに笑ったのだが、気になることを言う。

「石沢は腹黒いから、石黒に名前を変えちゃえば?」

50歳にして、そんなに心の中は綺麗ではいられないのだが、
それにしても名前を変えなければならないほど、私の腹の中は
黒いのか?
心は汚れきっていると、他人には見えるのか?

汚れているかどうかは別としても、私は黒いものがやたらと好き
だ。ブラックコーヒーが好きで、黒ウーロン茶が好きで、好物は
イカ墨スパゲティだ。

これはいかんと思い、ふだん飲まない牛乳などを飲んで、腹の中
を中和した。
心も真っ黒からせめて灰色にうすめたような気分になれた。
でも、心の中はやはり青空がいい。

                 *

私は、最近入社した、絵を描くのが大好きという、サラリーマンF
を思いだした。Fをさっそく呼んだ。
そいつに、絵筆を用意してもらい、さらに小さくなってもらって、私
の腹の中に入ってもらった。
腹の中で青空を描いてもらうつもりだ。

腹の中に到着したFは、私の腹の中でやたらと要求する。
やれ、ソーダー水を飲めとか、ヨーグルトを食べろとか、レモン
ジュースを飲めとか、とてもうるさい。
そのジュースの色素で、腹の中にどんな絵を描いているのか?

Fのジュース攻撃のおかげで、腹の中はダブダブになってしまっ
た。腹が痛い。
どうも、ジュースを飲みすぎてしまったようだ。

恥ずかしながら、おしっこががまんできす、この年でおもらしして
しまった。
濡れたパンツがとても気色悪い。
「まいったなぁ・・・」と、思いつつ・・・
おもらしズボンをみんなに気づかれないようにそっと歩いて、トイレ
に入った。
パンツを脱いでみると、そこにはパンツにきれいな虹のしみがで
きていた。

「どうだ、まいったか!」
そのゲイジツ家Fは私の腹のなかでえばっている。

私は、それはちょっと違うと思った。
きれいにしてもらいたいのは、パンツのおしっこのしみではなくて、
私の腹の中なのに。

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