踊る味噌汁・フラ汁

今日から、私はひさびさの独身気分を味わっている。
妻が熊本の実家へ遊びに行った。「1週間はのんびりしてくる」
と言っていた。

会社から帰ると、ガランとした静かな部屋が自分を待っていた。
少し、寂しげに見えるこの空間もたまにだと、自分には新鮮だ。
妻には申し訳ないが、部屋の空気まですがすがしく感じる。

さて、何をしようか?
「アダルトDVDでもレンタルしてこようかな?」と思ってもみたが、
少々、体がだるい。
風邪気味かもしれない。こんな体調では、気持ちも盛り上がら
ないし、体に悪い。

私は、その代わりにフラ汁の出前を取ることにした。
フラ汁は会社の同僚が話していた、ユニークな味噌汁だ。
贅沢なフラ汁でも飲んで体力をつけなくてはなるまい。

冷蔵庫から適当におかずを引っ張りだし、妻が買い置きして
くれたかんづめをテーブルに置いた。
出前のフラ汁も届いたところで、テレビでも見ながらのんびりと
夕食だ。

会社の同僚は、「フラ汁はとてもおいしい味噌汁で、忘れられな
い味だ」と話していた。
確かに、味噌汁というより、外食の1食分に近い値段だ。そして
この味噌汁には不思議なおまけがある。

味噌汁の上で3センチくらいの小さな少女が、フラダンスを踊っ
ている。
位置はちょうど、碗のど真ん中だ。
味噌汁のゆげの中で、フラダンスをながめているのは、和と洋
がミックスされているようで、不思議な味わいがある。

当然、その3センチのフラガールは、実在の人物ではない。
何でも味噌汁を入れている碗にICが組み込まれていて、
少女の像を立体CG(3Dホログラフィ)で作成しているとの事だ。
詳しい事は私は知らない。
その仕組みを理解したいとも思わない。

贅沢を言えば、踊っている最中に何かの拍子で、味噌汁に少女
の足が入り、「アチ!」なんてゆう動作も入れてほしいところだ。
それは望み過ぎというところか・・・・・・。

踊る少女をながめてばかりでは、味噌汁が冷めてしまう。
味噌汁を口に運ぶ。味噌汁の上で踊っていた少女の体が傾く。
まるで少女も一緒に飲み込んでしまうのではないかと思い、
緊張する。

少女を飲み込んでも、実態のない像なのだから、空気を飲む
ことと同じなのだ。
それなのに、ひどく残酷のような気がするのは何故か?
味噌汁の斜めになった汁面上で、踊っている少女も心なしか
不安気に見える。

味噌汁を置いて、ご飯を口に運びながら、テレビをつけては
いるのだが、目は汁の上でのフラダンスに吸いつけられてし
まっている。

フラ汁を飲み終えて、テーブルの上に碗を置くと、いきなり
フラダンスの少女が何かに足をすべらしたかのように、碗の
中央で大きく転んだ。
実は味噌汁が、少女の踊りのバランスを取っていたようだ。

少女が、転ぶと同時に味噌汁の碗が、「ピキッ」という音を
たてて細かく分割され、崩れ落ちた。
まるで、味噌汁の碗が小さな爆発を起こしたかのようだ。
それは、碗の内部を分解して、少女を立体化する技術を
他企業に盗まれることを防御するためなのだろうか?

碗が崩れた瞬間に、少女が転倒し、少女の体が透明になり、
私の視界から消えていった。
友人が言っていたことを思い出した。
「フラ汁は、おいしいのだけれど、壊れやすいのが欠点だ。」

壊れやすいというよりは、「必ず壊れるように出来ている」と
いうのが、正解なのだろう。
私は、テーブルの上で粉々になった味噌汁の碗をながめながら、
「もう一度、少女のフラダンスが見たいなぁ」と、
いつまでもいつまでも思い続けていた。

              (完)

私は、この短編を書き上げ、ほっとする。
まるでノルマのようにして、勢いで仕上げた。
これは、本当に個人的な自分の為に書き上げた作品だ。

               *

話は変わるが、私は最近もの忘れがひどい。
脳が知らないところで、どんどん壊れているようで不安になる。
その記憶力の減少に対抗するかのように、今、英単語の暗記を
自分に課している。

なんとか単語を2千まで覚えた。
これが英語を勉強する人にとって、多いのか少ないかは、わか
らない。しかし、頼りない記憶力でよくここまで暗記できたと、自分
をほめてあげたい。

その記憶した単語とは別に、その場で何度覚えても、時間が
経つとすぐに忘れてしまう単語がある。
それはどうやら単語の文字数とは関連性がないようだ。
その忘れやすい単語が100くらいある。

そのうちのひとつが 「fragile」 という単語で意味は「こわれ
やすい」。
ローマ字読みで「フラジル」つまり、今回書いた短編「フラ汁」
は、そこから連想してつけられたネーミングだ。

『単語「fragile」は「こわれやすい」という形容詞』
と、いう事を覚えるために書き上げたものなのだ。

もっとも「fragile」は、「フラジル」とは発音せずに、どちら
かと言えば、「フラージョイル」と聞こえるような発音。
しかし、まぁ、良しとしておこう。

これで、今度こそこの単語を覚えられるはずだ。
もっとも、この小説を書いたことさえ忘れてしまったら、ムダ骨
になってしまうが。

それにしても、忘れやすい単語が「100個」あるとすれば、単語に
意味づけた話を残り「99話」書かなければならない。
なんて考えると、ちょっと気が遠くなるのだが・・・・。

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花がさいた

「おとうさん、綺麗だね。」
息子が私の髪の毛を見て言う。
「本当にきれいよ。私がそうなりたいわ。」
妻が、言う。

最近、髪の毛の先っぽに白い花が咲く。
殆どが白い花なのだが、たまにピンク色の花が咲く。
私の顔は、年とともにだらしない顔に崩れていき、
綺麗とは程遠いものになっているが、髪の毛だけは、
40代のわりにはふさふさしている。

その髪の毛に花が咲いて、
ようやく私の見栄えも華やかさが、加わってきたようだ。

外に出ると、同じように髪の毛に花が咲いている人に会う。
お互い、ライバル意識を持ちながらも、さりげなく言葉を
交わす。

「めずらしいですね。緑の花ですが。」
私と同じ年代の男に、言葉をかける。
「いや、めずらしいだけで、やはり、白い花がいいですね。」

「え?でも白い花は一般的すぎて個性がない。たまには緑の
花もほしいですよ。」私は相手をおだてる。

「それでしたら、私の髪の毛を植毛してみますか?」
「なんか植木みたいですね。」
とりとめのない話題で、お互いいい気持ちになって笑いあう。
何はともあれ、散歩も楽しいものとなってきた。

しかし、「この髪の毛の花は、私の脳味噌を栄養に咲いている
のではないか?」
そんな事を思うと、ふと恐くなる。

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あり

イッシーはアイスクリームを食べた。
近頃、歯がぼろぼろだというのに、こりづに食べ続けている。

歯にアイスクリームがしみて、頭痛がする。
同時に憂鬱になって、口をポカンと開けたまま、しばし呆然と
宙をみつめる。

このやる気のなさ、だるさ、これは何なんだ?

口のアイスクリームをめがけてイッシーの足から除々にありが
登ってくる。
気が付いた時は、イッシーの口のなかは『あり』だらけ。

耳がもぞもぞするとおもったら、耳の穴がありに占拠されている。

鼻もそうだ。
鼻をかんで、ありを追い出そうと思って、鼻をかんだんだが、
ありは、イッシーの鼻の穴にくらいついていて、出てきてくれない。

口の中も同じ。
うがいをしても、でてこない。口のあらゆるところに、くらいつい
ている。

その痛みで、イッシーは気絶しそうだ。
気絶どころか、ありで窒息死だ。

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改造銃をもらって

イッシーは改造銃をもらった。
銃の撃ち方は、そのくれた友人に教わった。

初めて撃ったときは、全身にしみわたる音と振動にしびれた。
しびれすぎて、自分が電気クラゲになったような気持ちになった。

そういえば、「でんきくらげ」という増村保造監督のエロティックな
映画が昔、やっていた。
それを見たときは、同じしびれるでも、ちんちんがやたらしびれた。
そんなことを思い出した。

その銃を自分の口でくわえると、これからまるで自分が自殺する
かのような気持ちになる。
もうイッシーは生きすぎた。まもなく50歳だ。

「人間失格」の太宰治より、長生きしてしまったではないか。
『銃1発で・・・あの世に旅たとう』
などと考えて、口のなかに苦い銃口をいつまでも咥えている。

なんて、センチな気持ちもいつまでも続かない。
急に尻の穴がかゆくなった。その銃口でゴリゴリ尻をこすったりして
いる。
そこで、銃が暴発して自分の尻が吹き飛んだら、目もあてられない。

そんなことを思いつつ、上野公園で怪しげなイラン人からもらった
薬を飲んで、いい気持ちになって無意味な今日にサヨナラして寝る。

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